LaTeXは、高度な組版を可能にするテキスト処理システムであり、論文、レポート、プレゼンテーションなど、さまざまな文書の作成に利用されています。その自由度の高さや美しい組版の特徴から、多くの専門家や学生に愛用されています。しかし、初めてLaTeXに触れる人にとっては、設定項目や文法が複雑に感じることもあるでしょう。
この記事では、2023年度のLaTeXの基本的な使用法と新しいトピックスについて紹介します。LaTeXを初めて使う方から、従来のユーザーまで、誰でも役立つ情報を提供していきます。
LaTeX文書の構造
LaTeX文書の構造は、タイトル、セクション、段落などで成り立っています。ここでは、基本的なLaTeX文書の構造と、それをどのように作成するかを紹介します。
プリアンブル
LaTeX文書を作成する際には、プリアンブルと呼ばれる部分で文書の設定を行います。文書のクラス(jlreqやarticleなど)の選択や、使用するパッケージの指定、フォントの設定などが含まれます。プリアンブルは、\documentclass
コマンドで文書のクラスを指定し、必要なパッケージを\usepackage
コマンドで読み込むことで設定します。
\documentclass[オプション]{クラス名}
\usepackage{使用するパッケージ}
% フォントの設定など
タイトルと著者
LaTeX文書には、タイトルや著者情報を追加することができます。これらの情報は、\title
、\author
、\date
コマンドを使用して指定します。また、\maketitle
コマンドを使うことで、指定した情報を元にタイトルページを生成することができます。
\title{文書のタイトル}
\author{著者の名前}
\date{\today} % 今日の日付を表示
\begin{document}
\maketitle
セクションと段落
LaTeX文書では、セクションや段落を適切に区別することで、文章の構造を整理します。セクションは\section
、\subsection
、\subsubsection
などのコマンドで作成します。それぞれのセクションにはタイトルが含まれ、文書の目次に自動的に追加されます。
\section{セクションのタイトル}
文章の内容...
\subsection{サブセクションのタイトル}
文章の内容...
段落は、空行を挟むことで作成します。段落を作成することで、文章の流れがスムーズになります。
これは段落の始まりです。段落は空行を挟むことで作成されます。
新しい段落がここから始まります。
数式の美しい表現
LaTeXは、数式の美しい表現に優れており、科学技術文書や論文で頻繁に使用されています。数式を正しく表示するためには、適切な数式環境を使用し、記号や演算子を適切に配置することが重要です。
数式モードの基本
数式をLaTeX文書に挿入するには、数式モードを使います。インライン数式は本文の中に数式を埋め込む場合に使用し、ディスプレイ数式は中央に配置されて独立した数式として表示される場合に使用します。インライン数式は、$ 数式 $
または\(...\)
で囲んで表現します。
これはインライン数式の例: $E=mc^2$。
ディスプレイ数式は、\[ 数式 \]
またはequation
環境を使用して表現します。equation
環境は、数式に番号を付けることができるため、必要な場合には参照することができます。
これはディスプレイ数式の例:
\[
\frac{d}{dx} \left( \int_{a}^{x} f(t) \, dt \right) = f(x)
\]
数式の記号と演算子
LaTeXでは、さまざまな数学的な記号や演算子を適切に表現するためのコマンドが用意されています。たとえば、上付きや下付きの文字を表示するためには、^
や_
を使用します。
上付き文字: \( x^2 \)
下付き文字: \( a_0 \)
また、分数や根号、積分などの演算子も簡単に表現できます。
分数: \( \frac{a}{b} \)
平方根: \( \sqrt{x} \)
積分: \( \int_{a}^{b} f(x) \, dx \)
AMS数学パッケージ
数学的な表現をさらに豊かにするためには、AMS数学パッケージを利用することがおすすめです。AMS数学パッケージには、多くの数学的記号や環境が含まれており、高度な数式表現を可能にします。
\usepackage{amsmath, amssymb} % AMS数学パッケージの読み込み
\begin{equation}
\sum_{i=1}^{n} i^2 = \frac{n(n+1)(2n+1)}{6}
\end{equation}
AMS数学パッケージは、数式の美しい表現を実現するための強力なツールです。
図の挿入とキャプション
LaTeX文書に図を挿入する場合、graphicx
パッケージを使用して図を読み込みます。また、図にはキャプション(説明文)を付けることが一般的です。
LaTeX文書に図を挿入し、キャプションを付ける方法について説明します。
graphicx
パッケージの使用
graphicx
パッケージを使用することで、外部の画像ファイルをLaTeX文書に挿入できます。includegraphics
コマンドを使用して、画像ファイルを指定します。画像ファイルは、LaTeX文書と同じフォルダにあるか、指定したパスに存在している必要があります。
\usepackage{graphicx} % graphicxパッケージの読み込み
\begin{figure}
\centering
\includegraphics[width=0.5\textwidth]{image.jpg}
\caption{美しい風景}
\label{fig:landscape}
\end{figure}
figure
環境を使用することで、図を中央に配置し、キャプションとラベルを付けることができます。ラベルを付けることで、他の箇所で図を参照する際に便利です。
図の配置とサイズ調整
LaTeXは、自動的に最適な位置に図を配置しますが、場合によっては配置を微調整したいこともあります。図の位置を指定するには、figure
環境内でh
(ここ)、t
(ページ上部)、b
(ページ下部)、p
(専用ページ)などのオプションを指定します。
また、図のサイズを調整するためには、\includegraphics
コマンドのwidth
やheight
オプションを使用します。例えば、width=0.7\textwidth
と指定することで、図の幅をページ幅の70%に調整します。
キャプションの追加
図にキャプションを追加するには、caption
パッケージを使用します。キャプションは図の説明文として表示され、図の内容を理解しやすくします。
\usepackage{caption} % captionパッケージの読み込み
\begin{figure}
\centering
\includegraphics[width=0.5\textwidth]{image.jpg}
\caption{美しい風景}
\label{fig:landscape}
\end{figure}
独自の図表の作成
LaTeXには、図を独自に作成するためのツールもあります。TikZやPGFPlotsなどは、LaTeX内で直接図を描画するためのパッケージであり、複雑な図表を作成する際に便利です。
校正と出力
LaTeX文書を完成させる際には、最終的な校正と出力が重要です。文書内の誤字や脱字をチェックし、適切なフォーマットで出力することで、読みやすくプロフェッショナルな文書を作成することができます。
校正作業の重要性
LaTeX文書の完成前に、文書内の誤字や脱字、文法の誤りなどを確認することは欠かせません。誤りがあると、読者に誤った情報を提供する可能性があります。文書の校正作業では、注意深く文書を読み直し、細かなミスを修正することが求められます。
また、数式や図の表現もチェックすることが重要です。数式の記号や演算子、図のキャプションなどが正しく表示されているかを確認しましょう。
出力フォーマットの選択
LaTeX文書を出力する際には、PDFファイルや印刷用のフォーマットを選択することができます。PDFファイルは、ほとんどの環境で閲覧できるため、一般的な出力フォーマットと言えます。PDFファイルは、\documentclass
コマンドで指定したドキュメントクラスに従って、レイアウトやフォントが適切に出力されます。
また、印刷用のフォーマットを作成する際には、印刷所の要件に合わせて設定することが重要です。カラープロファイルやトンボ、クロップマークなどの設定を調整し、印刷物としての出力を行いましょう。
コンパイルとプレビュー
LaTeX文書を校正し、出力フォーマットを選択したら、最終的なコンパイルとプレビューを行います。LaTeX文書は複数回のコンパイルが必要な場合があります。通常、文中に参照や目次が含まれている場合、コンパイルを複数回行う必要があります。
プレビューは、実際の出力結果を確認するための作業です。TeX環境によっては、PDFプレビューアを提供しており、文書の見た目を確認することができます。
最終的な出力
校正とプレビューが完了したら、最終的な出力を行います。出力フォーマットに応じて、PDFファイルや印刷物などが生成されます。出力物を確認し、文書が意図した通りに表示されていることを確認しましょう。
以上のステップを踏むことで、LaTeX文書をプロフェッショナルな形で完成させることができます。
書籍とドキュメント
LaTeXを学ぶための書籍や公式ドキュメントも豊富にあります。以下は、参考になる資料の一部です。
- 「LaTeX2ε美文書作成入門」: 奥村晴彦著のLaTeX入門書。基本的な使い方から応用まで詳しく説明されています。
- LaTeXの公式ドキュメント: 公式ドキュメント(https://www.latex-project.org/help/documentation/)には、LaTeXの基本的な使用法や機能、パッケージの情報が掲載されています。
以上で、LaTeXの学習ガイドの内容が終了です。LaTeXを使いこなすためには、継続的な学習と実践が不可欠です。どんどん挑戦し、素敵な文書を作成していってください。
プリアンブル設定編
LaTeXの真髄は、自由度の高い設定が可能であり、低レベルな設定項目も存在します。しかし、これらの設定項目の影響範囲と目的を正確に理解しない限り、LaTeXを用いた組版の利点を享受することが難しいかもしれません。
本セクションでは、簡潔かつ正確な設定を実現するためのいくつかのパッケージを紹介します。これらのパッケージを活用することで、効率的で洗練されたLaTeX文書を作成する手助けができます。
旧版の警告と新たな提案
まず、LaTeXの旧版の警告や廃止予定の機能に注意を払う必要があります。これに関する詳細情報は、l2tabuドキュメントを参照してください。
ドキュメントクラスの選択とjlreq
文書の基本的な設定は、適切なドキュメントクラスの選択から始まります。日本語組版に特化したjlreqクラスは、こちらで詳細な情報を提供しています。基本版面のサイズや余白の設定方法に関する情報も確認しておきましょう。
カスタムフォントの設定
文書のフォント設定は、視覚的な印象を大きく左右します。以下の設定をプリアンブルに追加することで、Times、Helvetica、Inconsolataの組み合わせを利用できます。
記事で紹介されているプリアンブルの設定を行うことでTimes + Helvetica + Inconsolataを利用できます。
\documentclass[autodetect-engine,dvi=dvipdfmx,ja=standard]{bxjsarticle}
\usepackage{ifxetex,ifluatex}
\ifxetex
\usepackage{xltxtra}
\usepackage{unicode-math}
\setmainfont[Mapping=tex-text]{TeX Gyre Termes}
\setsansfont[Mapping=tex-text]{TeX Gyre Heros}
\setmonofont[Mapping=tex]{Inconsolatazi4}
\setjamonofont[Mapping=tex]{IPAexGothic}
\else\ifluatex
\usepackage{unicode-math}
\setmainfont[Ligatures=TeX]{TeXGyreTermes}
\setsansfont[Ligatures=TeX]{TeXGyreHeros}
\setmonofont{Inconsolatazi4}
\else
\usepackage[T1]{fontenc}
\usepackage{tgtermes}
\usepackage{tgheros}
\usepackage{inconsolata}
% \usepackage{newtxmath}
\newcommand{\symbf}[1]{\mbox{\boldmath $#1$}}
\fi\fi
便利なパッケージ紹介
以下では、基本的な文書作成に役立ついくつかのパッケージを紹介します。
Geometryパッケージ
余白を調整するためのGeometryパッケージは、紙面のレイアウトを決定する際に便利です。特に、jlreqクラスを使用しつつ余白を調整したい場合に重宝します。ただし、縦組みには対応していない点に注意が必要です。
https://texwiki.texjp.org/?geometry
レイアウト(特に余白)についてそもそも,ページレイアウトを変えたい理由のほとんどは「余白が広すぎるように感じる」ことでしょう。しばしば,LaTeX 標準の article.cls,report.cls,book.cls(日本語なら jarticle.cls,jreport.cls,jbook.cls)の余白が広いという主張をみかけます。 しかし,実際は「余白が広い」のではなく,「用紙が大きい」というのが正しい理解です。 これらのクラスファイルは,米国で標準的なレターサイズ文書を前提に作られており,それをそのまま A4 用紙に印刷するので結果的に余白が大きく見えるのです。レイアウトを自分でいじる場合に避けるべきことを挙げておきます。 もちろん,本当に「TeX が何をやっているのか」分かっている人なら,これらを使うことには制約はありません。 ページレイアウト・パラメータの直接設定を行うには,複数のパラメータを整合性を保って設定する必要があり,以下は初心者にはあまり勧められません:やってはいけないこと\oddsidemargin などの調整によるレイアウト変更絶対にやってはいけないこと\hoffset,\voffset をいじること参考:使ってはいけない LaTeX のコマンド・パッケージ・作法の「8. ページレイアウトの変更」一つの対処法が,この geometry パッケージを利用することです。
siunitxパッケージ
計量単位や数値のフォーマットに便利なsiunitxパッケージは、最新バージョンでは多くの変更が行われています。公式のUser Manualを参照し、正しいコマンドの使用方法を学ぶことをおすすめします。
amsmathパッケージ
数式の美しい表現を実現するamsmathパッケージは、LaTeX文書で数式を多用する際に欠かせないツールです。様々な数式表現に対応しており、高度な数学的表現を作成できます。
PXrubricaパッケージ
日本語文書でのルビ(ふりがな)を実現するPXrubricaパッケージは、特に学術文書や書籍での利用に適しています。
xcolorパッケージ
色を使用するためのxcolorパッケージは、図や表の強調表示や装飾に役立ちます。
プリアンブルの設定を工夫することで、LaTeX文書の外観と品質を向上させることができます。